湧水

いま湧きたつ柔らかいこの感情を 明日どうこうしようとしても遅い 時間とともに凝固して 確固たるものになってふと消える 次々溢れてはどこかへ流れていく 液体の鉛のように重く鈍く蠢く様に どうしようもない生を感じる ここに、命がある

再会

きみの瞳がまっすぐ向く先 痛いくらいの引力で I love you と叫んでいる どうして私ではないのだろう? あの子のはにかむ無邪気さが 弾丸となって恋心を砕く 好きだよの残響 どこでかけ違えたのだろう? じわりと傷口が広がって 後から痛みがやってくる 木枯…

修羅

進む進む、どんどん進む 過ぎたことに意味はないから 振り返りはしない 待って待ってと声がする 大義を前にあまりに弱音だから 振り向きはしない この道が正しいかは関係ない 私の道こそ正義と決めた 幾人の正義と交差して どんなに罵声が飛び交っても 足を…

開拓者

荒野を往こう道は知っている 立ち塞がるものはすべてその先に待つ光がつくる影にすぎない 近道はないけれど恐れることはない 荒野を進もう道なき道を踏む 土ぼこりが恐怖を運びオアシスという幻影を孕む 実体のない希望に速まる鼓動 荒野をねじ伏せよう足跡…

フリをしている

心に鎧をまとい体は頑丈を装う あなたを求める一方一人ぼっちの安寧が恋しい 眠ること、食べること話すこと、聞くこと 興味を拾い集めてはつまらないと切り捨てる日々 誰もが舞台の上に立ち勝敗のない空虚な試合を続ける 生まれた時から円周の一点で中心から…

メメンとモリ

絶体近づいてはいけないよ 周りはみんなそう言ったそうか、と合点してもうそのことは忘れて生きてきた ある日突然その場所は私の前に姿を現したかつてムラだったそこに広がるそれはモリと呼ばれていた 私から近づいたのではないよお前からやって来ただから私…

引力

揺れる碧面を見ているとひどく息苦しいのは美しさの内に命が燃えているから 凪いだ茜を仰いでふと恐ろしいのは球面の外に無が垣間見えるから 金色の原を風が駆けていく目を閉じればおいでと声がする いま、朝が死に夜が生まれた色を失った大地に銀のベールを…

雨乞い

カーテンなんてなくても風が流れていることはわかる 涙なんて見えなくても誰かが泣いていることだってある 静かな静かな夜に心が逸って眠れない温く柔らかい日差しが地獄の炎のように身を焦がす みんなと同じはずなのにそうじゃないのかもしれないと不安が空…

近似

ことばでなくても鋭利でなくても心は簡単に傷つけられる 腐った果実をかぎ分ける嗅覚ばかり発達した合理的なこの世界にきみの求める優しさはきっとない 深く微かな調べに身を置くと何もかもが生まれたてに無垢で意味のないものに感じられる きみが何者でもど…

もしも

祈りや願いが立ち上って天に届くというのなら空気抵抗にも屈しない強い堅い想いでないといけない もしもの話をしたね 何物を差し置いてでも叶えたいことなんて思い浮かばなかったすべてを凪ぎ払って上を目指しても辿り着いた場所が次の開始点 果てしない砂の…

夜明

星を描こうと思った しらみ始めた宇宙からゆっくりと朝が立ち上がってこちらを見据えている 凛とした冷たさのなか夜を屈服させる強さが光を連れ去って閉じ込めた 箱を飛び出したのは赤ですか、青ですか?底に残ったのは緑ですか? 強くなったと思った分だけ…

てのひら

都会の隅のマンションの一室に帰って鍵をかけてみても独りになることはできなくて 私たちがヒトと呼ぶ種族の誰かと潜在意識のずっと奥のほうで手を繋いでいるのじゃないかな 火曜日はハンバーグと誰かが言ったからスーパーで合挽き肉が見つからない 夜になる…

delete

きみがいなくたってこの街は機能するきみの大切な猫が帰ってこなくたって夜は来て朝も追ってきてそしてきみを追い抜く 何かぽっかり欠けたとわかっているのにそれが何かはわからない当たり前ってなんだったのだろうふと考えても昨日見た夢のように霞んでいる…

金曜日

ショートブーツを脱ぎ散らかしてベットに身を沈める 投げ出した足はむくんでいてなんだか頭も痛い ああ今日もまた始まる恋人たちの果てしない夜だ

健康診断

大人の吐くウソとかエゴでこどもの肺が汚されていく 口のなかで混ざって氷点下に達した悲しみがしんしんと胃に降り積もるのをぼんやりと感じていた この空間いっぱいになったらきっと誰もが死んでしまうことに薄々気づいているんでしょう 憂鬱な朝体が重いの…

帰化

いつまでもわたしが泣いているから太陽も泣いてしまったとパパは言った 星々を縫って掛けていくそれは太陽が流した別れの涙なのだと 窓の向こうはあまりに美しかったから自分が恥ずかしくなって人前では泣けなくなった いつか涙の果てを探しに行こうと約束し…

カップラーメン

それじゃこうしませんか3分後にまたここで 神秘の白から放たれる誰よりも俗っぽい蕾を目印に わたしは窓を開けて世界を一周してきますよ 空の色なんて関係ない欲望に忠実な音楽を聞き流して 空腹はわたしをうつくしい獣にする

浮力

きみはどのくらい浮くことができる? 水の中に入ってしまえば 深さなんて関係ない 上へ上へと焦がれるのは きみが宇宙を漂った名残 きみが持ってる服を 一つずつ脱いでいっても 羽衣はもうずっと前に失ってしまったからね 愛情は相当な重さだと気づくだけ 身…

何が正しいのかわからなくなったら 何も考えなければいい はじめから、すべてまやかしなのだ 僕が愛だの恋だの言っている間に 世界はもう何度生まれ変わっただろう いつだって、それは本物だった あゝ泣くな鬱陶しい 生ぬるくて鋭い痛みに たやすく支配され…

時間も肉体も心も すべて気まぐれで与えられた それは突然奪われうると 本能は知っている 灯火から始まった膨大な空間に ため息を吹きかけたら 何が起こるのだろう 進化の裏で何かを棄てながら 変わり続けるしかない 昨日まで踏みしめていた大地が 一歩先で…

激情がほとばしり内から溢れるころ 誰が私を見ているというの誰もしらないどうやらそれが私らしい かわいらしい微笑みのあの子と私は何が違うの 謎は答のないまま亡霊のようにさ迷う 悲しみが染み渡り内から滴るころ 誰が私を覚えているというの 誰も顧みな…

感情

悲しみはどこからくるの? ときみは呟く 愛したものが去り行く 風景が移り行く 思い出が消え行く それはしあわせを亡くしたとき やってくる しあわせはどこからくるの? ときみは続ける 息をのむほどの情景 笑みがこぼれるほどの歓喜 その先を見たいという興…

愛する

愛を貪って それ以外なんて無いみたいに 平然と哀れみを向ける 悪魔のようなものたち。 その目には もはや愛には見えない 恍惚と激情と狂気で ぐちゃぐちゃに塗り潰された たった一人しか映らない。 もっと綺麗にいきたいな。 純度の高い孤独が ほしいわけじ…

愛が報われぬまま 永遠にたゆたうとしても。 あの人の側にいて 一緒に ただ生きていきたかった。

二人で見上げた空が 何の変鉄もない茜色だなんて、 おとされた約束が 特別でない日常に昇華されるなんて、 今はまだ、信じられないけれど。 未練の涙を奪い去ってしまうほどの 嵐を待っている。 私はここにいるよ。

後悔

時を止めて四次元を切り取って閉じ込めろ君を、私を。 重力を忘れエネルギー法則を破り巻き戻れ君へ、私へ。 たった30秒前のしあわせにもう一度、会いたい

生という水の中を必死に泳ぐ私たちは機械仕掛けの人形でも死を越えた兵でもなく そこに生を受けた個にすぎない 有限の時の中でぼんやりたゆたう私たちは古からの進化過程も現のあるゆる苦しみも知らず 明日は必ず来ると疑わぬ魚

魔法

魔法みたいだ。 すぅっと春風が通り抜けて、 やわらかく雪をとかすような つぼみを開かせるような 君の笑顔が好きだよ。 君は魔法使い。

月の雫

夜の帳が降りて あらゆる色が闇にかしずく。 森はないた。 色彩を失った生き物たちが 己の存在を証明する。 葉はないた。 押し殺した悲しみが 夜露となって溢れる。 私もないた。 月だけが私を知る世界に あなたはもういない。

みんな消えて 静けさだけがそこにいた。 「お前じゃない」と言いかけて 私も消えた。