雨乞い

カーテンなんてなくても
風が流れていることはわかる

涙なんて見えなくても
誰かが泣いていることだってある

 

静かな静かな夜に
心が逸って眠れない
温く柔らかい日差しが
地獄の炎のように身を焦がす

 

みんなと同じはずなのに
そうじゃないのかもしれないと
不安が空に立ち込める朝を
もう何度繰り返しただろう

 

それは恵みか災いか
私の世界の外をふらっと通りすぎた
すべてを必然に変える力
祈りなんてあっても変わらない

近似

ことばでなくても
鋭利でなくても
心は簡単に傷つけられる

 

腐った果実をかぎ分ける嗅覚ばかり
発達した合理的なこの世界に
きみの求める優しさはきっとない

 

深く微かな調べに身を置くと
何もかもが生まれたてに無垢で
意味のないものに感じられる

 

きみが何者でも
どこへ向かっても
すること、しないこと
全部どうだってかまわない

 

何度も折れ曲がって交わる線分を
どうして書いたかなんて
覚えていられるわけがない

 

きみが引いた線を勝手に消す
権利なんて誰にもないけど
キャンパスはみんなのものだ

 

全身を唯一の武器として
どんなに磨耗しても
主張を止めてはならない生き方

 

岩が水に砕かれるように
やがて0に収束するカラクリに
きみは気づいたのだろう

もしも

祈りや願いが立ち上って
天に届くというのなら
空気抵抗にも屈しない
強い堅い想いでないといけない

 

もしもの話をしたね

 

何物を差し置いてでも叶えたいこと
なんて思い浮かばなかった
すべてを凪ぎ払って上を目指しても
辿り着いた場所が次の開始点

 

果てしない砂の大地を
永い永いキャラバンが行く
先頭は見えず、もはや知るものもない
終わりなき旅をしている

 

いつか身体は朽ち
魂は安らかに眠る
自分という意志が消えるとき
別れのキスをしよう

夜明

星を描こうと思った

 

しらみ始めた宇宙から
ゆっくりと朝が立ち上がって
こちらを見据えている

 

凛とした冷たさのなか
夜を屈服させる強さが
光を連れ去って閉じ込めた

 

箱を飛び出したのは
赤ですか、青ですか?
底に残ったのは緑ですか?

 

強くなったと思った分だけ
体に色を纏って
孔雀のように道化のように
選ばれたいという欲望

 

何者も透すまいとする
黒のキングに立ち向かう
脆弱な点と点と点を
ずっと見ていたかった

てのひら

都会の隅のマンションの一室に
帰って鍵をかけてみても
独りになることはできなくて

 

私たちがヒトと呼ぶ種族の誰かと
潜在意識のずっと奥のほうで
手を繋いでいるのじゃないかな

 

火曜日はハンバーグと誰かが言ったから
スーパーで合挽き肉が見つからない

 

夜になるとどこかで泣く人がいて
寂しさが半渇きのジーンズのように染み付く

 

右手で過去がやかましく騒ぎ
左手に未来がすやすや眠る
長い時間をかけて編まれていく
絨毯の一行一列

 

わたしを、わたし一人で生きたって
あなたと二人で生きたって
この手のぬくもりは同じということ

delete

きみがいなくたってこの街は機能する
きみの大切な猫が帰ってこなくたって夜は来て朝も追ってきて
そしてきみを追い抜く

 

何かぽっかり欠けたとわかっているのにそれが何かはわからない
当たり前ってなんだったのだろう
ふと考えても昨日見た夢のように霞んでいるばかり

 

甘いものはキライ。酸っぱいものもキライ。
辛いものはスキだけど熱いのはイヤ。

 

気まぐれに生きることが DNA に書き込まれていて
エンターで実行した単純なプログラムなのだ我々は

 

泣くことも笑うこともできるのに
泣くな笑うなと言われたらゴミ箱にドラッグするしかない
ひとつずつなくなっていってある日全部なくして
そうしたらもう死んだのと同じだ