健康診断

大人の吐くウソとかエゴで
こどもの肺が汚されていく

 

口のなかで混ざって氷点下に達した悲しみが
しんしんと胃に降り積もるのを
ぼんやりと感じていた

 

この空間いっぱいになったら
きっと誰もが死んでしまうことに
薄々気づいているんでしょう

 

憂鬱な朝体が重いのは
昨日の涙の消化不良

 

誰が生きようが関係ないって
低血圧にはまぶしくてまた
目を閉じてしまいたいんでしょう

 

かつて大人だったころの自分が
していたことなんてとうに忘れたけれど
わたしはもう許しません

 

感情の受け皿が広がって
いつまで待っても杯が満たされない
理不尽だとは思いませんか

帰化

いつまでもわたしが泣いているから
太陽も泣いてしまったとパパは言った

 

星々を縫って掛けていくそれは
太陽が流した別れの涙なのだと

 

窓の向こうはあまりに美しかったから
自分が恥ずかしくなって
人前では泣けなくなった

 

いつか涙の果てを探しに行こうと
約束した時のパパの笑顔が目に焼き付いている

 

部屋の隅で結集し色と体積を得たほこりが
そのまま浮き上がって空を隠した汚染の大地

 

ため息さえ降り注がない
不毛の故郷を捨てた日

 

今でも誰かが泣いているよ、パパ

 

ようやく辿り着いたこの星の上を
今日も悲しみが通りすぎていく

浮力

きみはどのくらい浮くことができる?

 

水の中に入ってしまえば

深さなんて関係ない

上へ上へと焦がれるのは

きみが宇宙を漂った名残

 

きみが持ってる服を

一つずつ脱いでいっても

羽衣はもうずっと前に失ってしまったからね

愛情は相当な重さだと気づくだけ

 

身体中に同じものが息を潜めていると思うと

吐き気がする

きみの小世界は

陸に打ち上げられたさかなそのもの

 

ひとは飛べないのだと

自由を奪った禁断の果実を

搾って飲み干したら

3センチくらい離陸できないだろうか

何が正しいのかわからなくなったら

何も考えなければいい

はじめから、すべてまやかしなのだ

 

僕が愛だの恋だの言っている間に

世界はもう何度生まれ変わっただろう

いつだって、それは本物だった

 

あゝ泣くな鬱陶しい

 

生ぬるくて鋭い痛みに

たやすく支配されるな

 

時間も肉体も心も

すべて気まぐれで与えられた

 

それは突然奪われうると

本能は知っている

 

灯火から始まった膨大な空間に

ため息を吹きかけたら

何が起こるのだろう

 

進化の裏で何かを棄てながら

変わり続けるしかない

 

昨日まで踏みしめていた大地が

一歩先で割れていても

立ち止まることはできない

 

だから、君を探している

この虚無のおそろしさに

心がすくわれないように

一瞬の安寧を一生求めていく

激情がほとばしり
内から溢れるころ

 

誰が私を見ているというの
誰もしらない
どうやらそれが私らしい

 

かわいらしい微笑みの
あの子と私は
何が違うの

 

謎は答のないまま
亡霊のようにさ迷う

 

悲しみが染み渡り
内から滴るころ

 

誰が私を覚えているというの

誰も顧みない

どうしてかそれが私らしい

 

泣きはらした夜の
あの子と私は
何が違うの

 

問いは忘れられたように
心の隅に巣食う

 

誰もしらない
あなたは誰ですか
私がしらない
あなたは誰ですか